ジョン・エルダー・ロビソン著「ひとの気持ちが聴こえたら」を読んだ。
ロックバンド「KISS」の火が吹き出るギターを製作した音響エンジニアであり、高級車専用の自動車整備会社の代表者でもある、アスペルガー症候群の著者は、脳外科医からの提案で、研究中の「経頭蓋磁気刺激(TMS)」の被験者となる。TMSはアメリカでは抑うつ症の改善に効果を認めらている療法で、これを自閉症の改善に役立てられないかという試みだった。本来言語中枢にエネルギーを与えることによる言語能力の改善を意図したものだったが、著者はこのTMSを受けた後、他人の感情がわかるようになる。それどころか、音楽や新聞記事にも感動し、涙が止まらなくなるという体験をする。論理しか解さなかった著者が、感情を解するだけでなく、人の表情はもちろん、見えないエネルギーを感じて他人の感情を感じたとき、それまで自分には一生わからないと諦め、夢見ていた感情の世界が、実は、人々の表出している感情には、喜びや幸せはほとんどなく、不安と怒りに満ちていたことを知る。更に、TMSの効果は持続しない。過剰なまでに共感能力の高まった著者は、徐々にまた元の他人の感情を解さない人間に戻っていく。
「アルジャーノンに花束を」を地で行くノンフィクション。
著者はIQの高いアスペルガーで、既に作家としても成功しています。アスペルガーの人達がどのように世界を見、感じているのか、この本を読むと生き生きとそれを感じられます。また「共感」とは何なのかを考えさせられる、示唆に富んだ本です。久々に無条件に面白いと感じた本に出会いました。
「ひとの気持ちが聴こえたら ー私のアスペルガー治療記」
ジョン・エルダー・ロビソン著 早川書房